備忘録

SNS時代の政治家が使う「批判封殺」の四段階サイクル ― 構造分析

とある県議に学ぶ情報戦の手法 備忘録

はじめに

SNSの普及により、市民が政治家の活動を直接監視し、発信できる時代になった。YouTubeでの議会ライブ配信やXでの意見表明は、民主主義の情報インフラとして機能している。

しかし近年、一部の政治家がSNSと既存メディアを巧みに組み合わせ、自らへの批判者を体系的に封じ込める手法が観察されるようになった。

本稿では、公開情報に基づき、その手法を四段階の構造として分析する。特定個人への誹謗中傷を意図するものではなく、有権者が知るべき「情報戦の構造」を明らかにすることを目的とする。

四段階サイクルの構造

第一段階:排除

政治家がSNSで特定の批判者について言及した後、なぜか呼応するように活動家がその批判者の実名、家族の実名、住所などの個人情報をSNS上で特定・公開する事態が発生する。直接の指示関係は不明だが、時系列的な相関が疑われる。

結果として、批判者は身の安全への不安から活動の継続が困難になる。議会のライブ配信(チャット欄開放)を行っていたYouTuberが配信を停止せざるを得なくなれば、多くの視聴者がリアルタイムの情報源や情報交換の場を失う。

ここで重要なのは、政治家本人は一切手を汚していないという点である。「私は何も指示していない」と言い逃れることが可能な構造になっている。

第二段階:被害者アピール

次に、その政治家は自らが受けた批判やネット上の反発について、オールドメディア(テレビ・新聞など)を通じて「被害者」として大々的に報じさせる。

メディアは「SNSの誹謗中傷に苦しむ政治家」という分かりやすいストーリーを好む。結果として、その政治家が第一段階で果たした役割は報じられず、一方的な被害者像だけが社会に浸透する。

同時に、裁判費用としてカンパを募り、開示請求や訴訟を次々に起こすと宣言する。これは実際の法的措置であると同時に、次の段階への布石でもある。

第三段階:威嚇

残った批判者に対して、「訴える」という威嚇を行う。支援者を使って「今度はあなたが裁判で訴えられるかもしれませんよ」と個別にメッセージを送り、一般市民にまで圧力をかける。

これはスラップ訴訟(SLAPP: Strategic Lawsuit Against Public Participation)の典型的な手法である。訴訟に勝つことが目的ではなく、訴訟の「恐怖」によって批判を萎縮させることが目的である。

一般市民にとって、たとえ正当な批判であっても、裁判に巻き込まれること自体が大きな負担となる。弁護士費用、時間、精神的ストレス。多くの人は沈黙を選ぶ。政治家はそれを知っている。

第四段階:見せしめ

最終段階として、実際に追い込んだ相手に謝罪させ、その場面をメディアに記録・報道させる

これは単なる個別の解決ではない。「逆らうとこうなる」という警告を社会全体に発信する行為である。次に批判しようとする人間は、この「見せしめ」を思い出して口をつぐむ。

なぜこの手法が有効なのか ― 三つの制度的欠陥

この四段階サイクルが機能してしまう背景には、日本の制度的欠陥がある。

第一に、ドキシング・晒し行為(個人情報暴露)を直接規制する法律が存在しない。 プライバシー侵害や名誉毀損として個別に対処する道はあるが、ドキシングそのものを罰する法令がないため、「住所を晒す」行為への抑止力が著しく弱い。実行者の特定と立証にも時間がかかり、その間に被害者は活動を停止せざるを得ない。

第二に、スラップ訴訟を規制する法律が存在しない。 アメリカの多くの州にはAnti-SLAPP法があり、公的事項についての発言に対する訴訟は、原告が早期に勝訴の蓋然性を証明しなければ棄却される仕組みがある。日本にはこの制度がないため、政治家が「訴えるぞ」と言うだけで市民を黙らせることができてしまう。

第三に、オールドメディアの報道が片面的である(いわゆる偏向報道)。 メディアは「SNSの被害者としての政治家」というストーリーは積極的に報じるが、その同じ政治家がSNS上で行っている加害的行為については報じない。この非対称な報道が、第二段階の「被害者アピール」を成功させている。

有権者として知るべきこと

この四段階サイクルは、民主主義の基盤である「批判の自由」を構造的に破壊する。

議会を監視するYouTuberが個人情報を晒されて配信を停止すれば、市民は議会の実態を知る手段を一つ失う。SNSで意見を述べる市民が訴訟で威嚇されて沈黙すれば、民意は政治に届かなくなる。

政治家の仕事は市民の批判に耐え、それに応えることである。批判を封じ込めることではない。

来年の統一地方選挙は、このような手法を使う政治家に対して有権者が審判を下す機会となる。投票という行為は、どんなスラップ訴訟によっても封じることができない、市民に残された最強の武器である。

本稿は公開情報に基づく構造分析です。特定個人への誹謗中傷を意図するものではありません。

タイトルとURLをコピーしました